直島:ベネッセアートサイト〜地中美術館

アートの役目

芸術と言うと堅苦しい気がする人がいるでしょうか。しかし、様々な作品との触れ合いは決して無意味な自己完結型の行為ではなく、人生をより有機的にそして豊かにしてくれるものだと僕は信じてます。作品を見て、何を感じるかは個人の自由。大切なのは、自分自身との対話する時間が生まれると言う事です。人間が人間らしく生きる為にはどうすれば良いのか、と言う生き方の模索がこんな時代だからこそ必要だと思います。それには、アートと言うものが優秀なツールとなって助けてくれる筈です。

時代を担う子供達へ

15歳以下の子供は無料で見学が出来ます。その他にも「地中スクール」と題されたプログラムの中には、「地中キッズインミュージアム」等のツアーの提案なども定期的にしているようで、子供達に広く芸術に触れる機会を増やそうと言う姿勢は本当に素晴らしいと思います。

ベネッセハウス”ミュージアム”

ミュージアムには、国内外のアーティストの作品が広い館内に様々な形で展示されています。

安田 侃(やすだ かん)

安田侃氏の作品に初めて出会ったのは、2009年7月に演奏の仕事で訪れた北海道美唄市の芸術文化交流施設・彫刻公園『アルテピアッツァ(イタリア語で“芸術広場”と言う意味)』と言う場所でした。7万平方メートルもある広場には氏の作品約40点が点在しています。
ベネッセハウス“ミュージアム”で見られる、氏の柔らかな曲線を含んだ豊潤な「天秘」と言う作品は、アルテピアッツァにて見られる様な自然の中に溶け込み、また自然をも取り込むような展示様式とも異なりますが、ここでも縦の長い部屋の天井は空に向かって開く事により外界との繋がりが作られており、作品に新しい息吹を取り込む事に成功していると思います。それは、天から授かる秘めやかなる恵みを平たい大理石が受け取り、天井まで続いたガラスで区切られた空間に閉じ込め内包すると言った様相です。
驚きと困惑のサイトスペシフィック・アート
興味深かったのはジェニファー・バートレット氏の「黄色と黒のボート」と言う作品です。展示された絵画には浜辺に打ち寄せる波を時がそれを3つに切り取るように描かれ、波打ち際には黄色と黒のボートが寄せられています。絵画の眼前には、実体化した黄色と黒のボートが同じ形態で設置されているのは実に面白いです。館内観覧ルートの坂を下って来ると先にボートだけが目に入り、絵の中のボートは柱に隠れて見えにくいように位置されています。波だけが見えて来るのです。これだけでも、かなり計算し尽くされた仕掛け達を持ってなかなか楽しめるのですが、この作品の凄さと言うか、僕は唖然としてしまったのは、更にこのミュージアムから何百メートルも離れた所にある海岸に同じように黄色と黒のボートが置かれていたと言う事です。絵の前の窓から遠くの浜辺に見る事が出来ます。これぞ「サイトスペシフィック・アート」と言う事になるのでしょうが、それにしてもまあここまでやるのかと驚きと困惑は隠せません。

南瓜

建物内に展示されている訳ではなく島内に点々としているのですが、希代のアーティスト草間彌生氏の南瓜に出会うのも今回の目的の一つでした。

旅の終わりに

「ベネッセアートサイト直島」の魅力の一つには、完成形が決まっていない所にもあるかもしれません。宿泊施設のオーバルにしても、後になって作られたと言う事で、作りながら、島民の方々と共に、時代と共に歩みながら形を変えて行くと言うスタイルはそう簡単に出来る事ではないかもしれませんが、今後注目に値する一つの在り方ではないかと思います。島内をシャトルバスで走ってみると、今現在も新たに建設工事中の現場が見られます。今後、どのようにこの島が発展し、文化を発信して行くのか、楽しみです。
現代では様々な分野に於いて、人類が進むべき方向を少しでも誤れば、地球環境に対して危機的状況をもたらす可能性の有る問題が世界中に山積みであり、散乱しています。そんな中、直島のような存在は希少です。アートと言うものが多くの可能性を持って、世の中への影響力を持っているものだと言う事を体感する事が出来、作品は建物と、そして島と共に僕たちにあらゆる新しい生活のアイデアを提供してくれています。

経済と文化は交互に影響し合って行く事が必要であり、またそれが真に豊かな世の中を作り出して行くのではないかと思います。そう言った側面から見ても、直島の、これからの社会にとっての役割は大きいものだと感じました。

「瀬戸内海に浮かぶ直島に現代美術を置き、ここを世界一の文化の島にしたい」と言う福武氏の願いは、僕たちに様々なメッセージを投げかけてくれます。

 

2009年12月7日  コーニッシュ

ベネッセアートサイト直島

福武總一郎氏が代表を務める、直島・犬島などを始めとする瀬戸内海の島々に於いて展開する現代美術を同根とするあらゆる活動の総称。美術館やホテル、キャンプ場の複合体「直島文化村」として1980年後半より行って来た活動が、建築物内部に収まらない規模になった為、2004年7月より「ベネッセアートサイト直島」に改称された。
〒761-3110 香川県香川郡直島町3449番地1

地中美術館

世界的にも評価の高い、建築家・安藤忠雄氏の設計による美術館。クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの3氏の作品のみを展示しており、それらは山の塩田跡の地下に作られた美術館だけではなく、作品自体もこの場所でしか成立しない形態で制作、または設置されている。天候や季節によっても鑑賞者の体感が変化するのも魅力の一つ。

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